| 三日目(8月11日)の行程: 横峰小屋 − 地蔵小屋 − 三国小屋 − 切合小屋 − 飯豊山神社 − 切合小屋 − 三国小屋 − 地蔵小屋 − 横峰小屋 五時頃起床。今日は飯豊山神社まで往復するのだ。朝食は全員共同で握り飯を作る。
六時過ぎに出発。ほどよくガスがかかっているので直射日光を浴びず、気温も上がらないためいくらあるいても汗をかかない。登山には最良のコンディションである。血の池のイモリを見てから三国岳を目指す。昨日来た剣が峰に差し掛かったころに、次第にガスが消えていった。
鎖場を過ぎ、出発から2時間ほどして三国小屋到着。飯豊山神社まで稜線部は福島県だが、実際には福島・山形・新潟の3県にまたがった地域である。だから三国小屋というのだろうか(父から聞いた話では、ここで三県にまたがって小便をして喜んだとか。)。三国小屋からは小起伏が続く単調な尾根伝いの道を行く。だんだん日差しも強くなってきた。センジュガンピやニガナなどの花が目立つ。江川先生に植物の名などを教わりながら進むのでなかなか楽しい。斜面の草原ではニッコウキスゲがそよいでいる。
種蒔山に着く。皆、腹が減ったといって私の方を見る。山に入って以来元気が良いとのことで、皆は空身なのに私だけ今日の食料運びをすることになった。この時点での体調はベスト。
単調な行進がついに崩れた。樹木の無い風変わりな平坦地に出たのだ。ところどころハイマツがへばりついている。あたりの小さな池などにおいてはウメバチソウなどとともにモウセンゴケも見つけることができる。全体としてはなだらかな女性的な風景であると言える。切合(きりあわせ)はもうすぐだ。イワナシの実を見つけて食う。直径5mmくらいなのだが、色も形も本物のナシそっくりであった。
三国小屋を出発して2時間ほどして切合小屋に到着。ここの便所はひどいものだ。便所の傍がゴミ捨て場であるために、そこで育ったハエがたかって、便器は真っ黒。近寄ればワンワンとうなる音が聞こえてくる。これにはゲテモノ好きの生物部も思わず後ずさり。残念なことに江川先生はここで引き返すとのこと。よって5人で本山を目指す。
草履塚という場所がある。ここにある地蔵(姥権現)はなんとボインちゃんなのだ。菅野先生はボインを撫でて一人喜ぶ。飯豊本山までの行程で最も険しいと思われる御秘所に到着。端まで行って下を眺めてみる。なるほど、垂直というよりもむしろ反り返っているとさえ思える素晴らしい崖である。御秘所を過ぎると飯豊山神社はもうすぐ。空にはわずかに絹雲が見えるだけだが、風が強い。うっかりすると西側から吹く強風に帽子を吹き飛ばされそうになる。ほんのわずか山の裏側にそれると、もうそこには強風はない。向こうの草原が風になびいていくのが見える。平和だ。
12:45 本山小屋到着。 飯豊山神社参拝の後、昼食をとる。ここでは古くから信仰されてきた飯豊山の昔の登山道などを示す古地図やバッジなどが売られていた。三国、切合、本山の各小屋はヘリコプターで資材を運んだというだけあって外見はなかなか立派であるけれども、内側は土間に筵を敷いただけのものである。これらに較べると、いくら外見上はみすぼらしくても、床がついているだけ、横峰小屋、地蔵小屋がすばらしく思える。
記念撮影後、すごい速さで起伏を登り下りして岐路につく。切合に着く前にイイデリンドウやシラネアオイを発見。特に雪渓の横でひっそりとつつましやかに咲いている淡い色のシラネアオイを見つけたときは嬉しかった。
13:10 切合小屋到着。
14:15 地蔵小屋到着。 私は疲れは感じるもののまだまだ元気。剣が峰を下り、疲れきってしまった小林君と曽根君を残して水場に水を汲みにいく。水は信じられないくらい冷たかった。菅野先生曰く、「ここで日大の学生が転落して死んだ。」おかげでますます体が冷えてしまった。
15:43 横峰小屋帰着。 この日の夜は格別であった。雲が無いために会津若松方面の街の灯がはっきりと見える。突然、下の暗闇から歌声が聞こえてきた。便所も小屋の下手にあるし、さきほど菅野先生がその辺りにいたので用をたしにでも行ってきたのだろうとの旨を曽根君に伝えたところ、彼は本気で信じ込んでしまったのだ。暗闇の中からガサッと一人の登山者が現れたとき、彼は「先生、テラテラやってきたんですか?」と聞いてしまったのである。
注: 横峰小屋の便所はそれはもうひどいものである。小の方はどこへでもご自由に、大の方は決まった場所はあるにはあるのだが、囲いがなくトタン板で小屋の方から見えなくし、下を掘って、その上に棒をのせて足場を作っただけのものである。江川先生は糞がくずれてベチャベチャになっている様子を形容してテラテラと称したのである。以後、我々は便所に行くことをテラテラと言うようになった。
その登山者は一瞬戸惑った様子で答えた。「エッ・・・・テラテラやってこない。」 彼はテラテラを「懐中電灯」と解釈したのだ。この夜中に切合まで登るのだそうな。驚異である。
深夜目を覚まして、一人外に出てみた。日中の暑さとは対照的にとても冷え冷えとしている。静かだ。盛んに鳴いていた裏の池のカエルも寝てしまったのだろうか。
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