| 初日: 2008年6月1日(日) 初日行程: 大蛇尾林道入口付近からスタート(05:02)〜取水堰(07:05−07:19)〜東俣・西俣合流点(08:55-09:22)〜1,401m地点(11:34)〜1,616m地点(13:31)〜1,870m地点(15:24)〜1,872m地点(16:30)〜名無山(16:50)〜瓢箪峠(18:00)〜スペースハウス(18:08)
塩那道路と大佐飛山の間には大蛇尾川の東俣と西俣の合流点に端を発する1870m級の尾根が横たわり、塩那道路の瓢箪峠から大佐飛山は見えない。主塊となるのは北側の1,872m峰と南側の1,870m峰であり、名前こそないが男鹿山地で第二、第三の標高を持つ堂々たる山体である(便宜的に大蛇尾川中央嶺と仮称する。正式名称ではないことをお断りしておく。)。南側のさくら市やもっと離れた清原工業団地から男鹿岳を除いて主だった男鹿山地の峰々を観察できる。最高峰の大佐飛山はぱっとしない容姿であり、遠めには容姿の美しい南側の1,870m峰の方が高く見える。何故に名前がないのか。おそらくは麓から見えない奥座敷にあり、峠道とも無縁で人との関わりが全くなく認知度が低かったためであろう。
人間と関わりの薄かった山々に名前がつけられたのは明治以降に測量調査が進むとともに登山が盛んに行われるようになってからのことだ。人間が関わると共通の呼称が必要になる。登った人間は名前をつけたがり、登山路を伐開しようとする連中も出てくる。名前がつき登山路もできればさらに多くの登山者の呼び水となり、人を寄せ付けない深山の趣は一気に失われてしまう。大蛇尾川中央嶺はこの流れにも乗らなかった。麓まで伸びる主稜ではないので大佐飛山に較べて格付けが低く三角点が設置されていない。アプローチが困難なので無雪期に行きたいという人はいても容易には行けない。残雪期ならば行けるだろうが縦走向きではなく瓢箪峠経由の往復になる。どうせ行くなら名前のついた大佐飛山という選択になる。結果的に行った実績が乏しいので話題に上がることも少ない。名前を必要としなかった山々なのだ。
大蛇尾川中央嶺に興味はあったものの、わざわざひょうたん峠経由して名無山から南に踏み出す意義を見出せなかった。昨年、よっちゃんさんのページで黒滝山大日尊の礼拝所案内図を見て『富士山中道』と記された山が気になった。中道というのは大蛇尾川の東俣と西俣の中間にある尾根を意味しているようである。深く積雪した真っ白な姿は富士のようでもある。江戸時代に黒滝山大日尊の修験コースを設定するにあたり、修験者達は大蛇尾川の奥深くまで探索したであろうし、ひょっとしたら二俣から富士山中道に登った猛者がいたのかもしれない。昨年、黒滝山大日尊の礼拝所巡りをしたときにうっかり御山沢を見過ごして二俣まで行ってしまい、そのついでに尾根取り付きの様子を確認。この経験で二俣から大蛇尾川中央嶺を歩き通せる可能性が出てきた。どうせ登るなら再び名無山のシャクナゲを見てみたい。6月最初の週の天気の良い日に挑戦することにし、夏休みの半分を前倒し取得。残念ながら週間天気予報ではぐずついた一週間となる見通しで、2日連続で晴れるのは6月1日と2日のみ。那珂川のアユ釣り解禁日と重なってしまったが今回は山歩きを優先。
湯宮を出発点とし、取水堰から大蛇尾川を遡行し二俣から尾根に取り付くことにする。尾根を登って名無山に達した後、東西どちらに向かうかの選択が悩ましい。せっかく名無山まで行って瓢箪峠からただ塩那道路を歩いて戻ってくるなんてもったいない。どうせなら大佐飛山経由して大長山から木ノ俣発電所に下ってみたい。木ノ俣発電所のある尾根末端は崖になっていて危険だが、春に取り付き場所を確保し標高1,000m以上まで偵察済み。過去にこの尾根を上り下りした人たちがいて要所に古いテープが残っている。藪は濃いが下りには問題なさそう。問題は大佐飛山と大長山の間のみ。大佐飛山の下りはアオモリトドマツ樹林なので倒木に悩まされることはないであろう。しかし大長山への登り返しは高い樹木が少なく藪漕ぎで体力が持たないかもしれない。この区間を突破するのに要する時間が読めないので、初日の進捗次第では瓢箪峠に逃げることになる可能性大だ。
1日早朝に自宅を出て先ずMTBを置きに木ノ俣川に向かった。道路勾配を考慮して奥まで行かずに途中の広場にMTBを置いた。瓢箪峠に逃げた場合、塩那道路からどうやってMTB置き場に近道するかが課題となる。
MTBで翌日走る予定のルートで湯宮に向かった。犬の集団がうろついている。首輪をつけていないようなので野犬か?クマを怖いと思ったことはないが性質が悪い野犬は怖い。帰りの不安が一つ増えた。大蛇尾林道入口では多摩ナンバーの車で来た3人組みが釣り支度中。木綿畑線をもう少し上がって広い路肩に車を停めた。
今朝の気温は7℃。快晴だが、林道は山陰で直射を浴びずひんやりとして山歩きには好都合。長い行程なので発汗しないようにまめに休憩を入れながら林道を歩いていく。この辺りの山にはウツギの木が多く林道沿いには白いウツギが満開である。3人組みはどこかから川に下降したらしく姿をみかけなかった。林道終点には別の釣り客の車が1台あった。大蛇尾川は大滝と取水堰の間が好釣場であるという。取水堰以遠に先行者がいないことを期待して進む。
沢靴に交換して遡行開始。荷物の関係でウェットのタイツを持たないので冷たい。前日の降雨で増水気味で少々怖い。ゴルジュ部を抜けていけるだろうか。流されて死ぬ怖れはないものの、転んでドボンは嫌だな。
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| 取水堰から見る大蛇尾川 07:05 |
天登大日山 07:33 |
谷底は気温が低いため、まだウワミズザクラが咲いていた。恐々ゴルジュ部を抜けると前方に釣り人を発見。ちょうちん釣りの2人組みだった。片方に挨拶して先に進む。御山沢の雷光滝(一の滝)を撮影に寄り道。御山沢合流点を過ぎると谷が広がり大きな中州を2つ連ねて二俣に至る。
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| ウワミズザクラ(ゴルジュ手前) 08:05 |
大蛇尾川二俣 08:55 |
登山靴に履き替えて藪尾根登り開始。取り付きは樹木が鬱蒼として傾斜がややきつい。チシマザサとスズタケの混合藪は薄く登っていくことは容易である。標高1,200mまで稜線部は岩がちで土壌が薄いためにアスナロに覆われ笹藪はほとんどなく、快適に登っていける。たまにカモシカが歩くことによってできた薄い踏み跡あり。人跡は一切無い。野生動物の気配が無いのでマダニの心配も要らない。岩場が2箇所あるが行く手を阻むような険しいものではなく楽に通過。
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標高1,200mを過ぎて尾根幅が広がると土壌が厚くなり、アスナロが消えてブナの木が多くなり濃いチシマザサ藪が切れ目なく続く。これには参った。浅い溝を渡って尾根の筋を乗り換える場所が2箇所あったので、この藪尾根を下ってくるのは難しそう。 標高1,401m地点は藪中で眺望無し。何処がピークかも判らん。鞍部への下りだけ藪が薄くて息抜きとなる。鞍部からは再び猛烈な藪漕ぎ(左の写真 11:38)。
丈2.5m以上の太いチシマザサを両手で強引に掻き分けて隙間を作り体を入れてこじ開けるような藪漕ぎは久しぶり。今年春に大倉山で体験した藪などたいしたことない。地面から太い筍がニョキニョキ出ていて採り頃だけど、余裕が無さ過ぎて「おいしそう♪」なーんて思ってる場合ではない。着脱式の偏光グラスがなくなっていた。男鹿山地で失くしたのはこれで2回目。
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標高1,530mまで上がると尾根が平坦になり、チシマザサ藪中で進むべき方向がわからなくなる。倒木の上に立って地形を確認してみると1,870m峰はまだはるか遠くにあり、1,616m地点までずっと笹薮が続いているのが見えてゲンナリ。そこからチシマザサと1時間も格闘して高度計表示がほとんど変わらなかったのにはあきれてしまった。ようやく勾配が出てきてピークに登り詰めると途端に植生が変化する。1,616m地点は意外にもシャクナゲの山なのであった。コメツガ林が鬱蒼として地表はシャクナゲの藪にびっしりと覆われている。折りしもシャクナゲが開花時期を迎えており、美しい花に慰められた。発色は良いが西洋シャクナゲみたいに花数が多くてゴージャスなものは少ない。
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| 1,616m地点の植生 13:58 |
アズマシャクナゲ 13:31 |
痩せ尾根のシャクナゲは嫌らしい存在だが、男鹿山地のシャクナゲは一様に優しく進行を妨げることはない。カモシカ道を辿って順調に鞍部へ移動。1,870m峰への登りでは濃いチシマザサ藪が復活する。できるだけシャクナゲが生える西側斜面を登って笹薮を回避。
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過去の人跡 14:33 稜線部のカモシカ道を辿っていて信じ難いものを目にした。径25p位の古い切り株があったのだ。この地域が過去に伐採されたことはないはず。他にももう一つ小さい切り株を見つけた。歩くのに邪魔な倒木を切除した跡のように見える。
現在は元の自然の姿が回復して人の関与があったようには見えないが、登山熱が盛んなりし頃に誰かが登山路を伐開したことがあったのであろう。桃ノ木峠から日留賀岳に至る尾根の伐開と同じ頃であったかもしれない。
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頂上に近づくにつれてチシマザサ藪がクマイザサ藪に移行する。ヌタ場のような水溜まりがあり、その先に残雪の島があった。1,870m峰の南側は眺めはあまり良くないが高いコメツガの樹林とクマイザサ藪で移動しやすい場所である。北側は様子が一変する。眺望は申し分ないのであるが、風雪吹きすさぶ厳しい環境らしく足元にはハイマツがびっしり。1,872m峰にかけて背の低いコメツガと笹薮がずっと続いている。地形図で予想していたより実際の1,872m峰ははるかに遠く感じられる。1,616m地点に達する前に藪に嫌気がさして大佐飛山には向かわずに瓢箪峠に逃げることを決めていたが、本日中に瓢箪峠に抜けられるかどうかも怪しくなってきた。
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| 1,870m峰からのパノラマ 15:31 中央が男鹿山地第二位の標高を持つ1,872m峰。左後方が男鹿岳、右側の最高点が大佐飛山である。男鹿岳の左側に見えるピークの左側鞍部が瓢箪峠である。
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まずハイマツの枝を踏みつけながら1,870m峰を下る。ここのハイマツは鹿又岳南のハイマツより丈が低いので移動が楽。コメツガがまばらに生える場所では稜線上を移動することは不可能となる。コメツガの樹高が低くて這い蹲らないと枝をかわせない。隙間を笹藪が埋める。うっかりすると笹薮に隠れたコメツガの倒木に脛をぶつける。2週間前から痛めている左足の脛をぶつける度に呻いた。幸いなことに尾根の東側斜面に途切れがちではあるが胸丈の笹薮になっている場所があり、滑ることなく移動できる。倒木も隠れていない。
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1,872m峰への登り途上で見た1,870m峰 16:08 1,870m峰と1,872m峰の間の緩い勾配の尾根は風雪が厳しく笹原に丈の低い樹木が点在する植生なので、残雪期に大長山から大佐飛山に向かう際には真っ白でとても美しく見える。
何故か1,870m峰だけはまじまじと見た記憶がなく、全景の写真も撮っていなかった。周囲の山々(日留賀岳、1,846m峰、1,872m峰&名無山)が白い残雪が映えて美しいため、コメツガに覆われてやや地味な1,870mに注意が行き届かなかったらしい。
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やっと1,872mピーク東側のアオモリトドマツの生える斜面に入ることができた。アオモリトドマツの樹林はコメツガ林のような性質の悪い倒木が少ないし、枝も邪魔しない。南東から1,872m峰の最高点に向かった。1,872m峰の山頂は眺望悪し。倒木の上に立って名無山の方角を確認。既に時刻は16:30。暗くなる前に瓢箪峠に抜けられるかどうかは名無山までの藪次第。嬉しいことに1,872m峰の東側は残雪が豊富であり、今年最後の残雪歩きを楽しめた。残雪帯を利用して名無山に近づく。一時かかっていた雲が取れて大佐飛山がスッキリと見えている。最後はコメツガの枝をかわしながら名無山到着。
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| 残雪帯 16:32 |
名無山MWVプレート 16:50 |
ここから大佐飛山に行くのはたやすいことだが、当初の目論見より遅れているし、大佐飛山から大長山に向けてもう1日藪漕ぎを続ける気力がない。迷わず瓢箪峠方向に下った。まだ午後5時前なので余裕がある。2005年に無雪期に歩いているので下りに不安はない。前回にはなかった赤テープもついており順調に連絡尾根の最低鞍部に降下。地形図に破線が記された割には踏み跡の消滅度が増しているように感じた。今年はシャクナゲのはずれ年だったようで、2005年のような見事な花着きのシャクナゲは少ない。木ノ俣川側の斜面には雪がたっぷりと残っていて、今年の積雪量が多かったことを物語る。ひょうたん峠に抜けると同時に左腿裏が軽く痙攣。ここまでアクシデント無く来れたのはまめに休みを取って発汗を抑え目にしたからだと思う。今晩はゆっくり体を休めることにして、スペースハウスに向かった。
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| 塩那道路から見る大蛇尾川中央嶺 18:06 |
スペースハウスに泊まるのは2003年以来5年振り。床は朽ち始めており、あと数年したら使えなくなりそう。2003年当時もそうだったが、カマドウマが棲んでいてピョンピョン飛び跳ねる音が聞こえる。ゲジゲジもいたような記憶がある。着替え後に、せっかく持ってきたのだからと思いテントを広げてみた。4月に栃木・福島県境尾根でテントのフレームを谷底に落としたので、新たに購入したスカンジウムフレームの初披露である。ところがフレームの方が一回りサイズが大きくてテント四隅の穴に入らない。自分のテントの名称はライズ1、購入したのはエアライズ1・ゴアライズ1用のフレームだった。こんなときはスパッツ留めの代用として持ってきたゴム紐が役立つ。テントの穴とフレームの挿し口を結んでテント設営完了。
日暮れ前に資材運搬路方面にぶらりと行ってみた。塩那道路の植生回復事業とは何をしているのかと思ったら、資材運搬路の接続点の荒地を柵で囲って笹などの養生地にしているだけ。放って置いても同じだろう。資材運搬路はますます藪化が進み、突入するには相当の覚悟が必要だ。2005年晩秋に遭難された方達は何故にこのような場所に入り込んでしまったのだろう?
ラジオを持ってこなかったので7時過ぎに就寝。長時間激しい藪漕ぎで握力を使い続けたために掌が痙攣する。尻の下に掌を敷いて無理やり掌を押し広げて痙攣防止。体が冷えてシュラフだけでは寒くて寝られないので、今回は父親からもらった断熱シートを試してみた。通気性が悪いのが今ひとつだが、断熱性が優れていてシュラフの中に敷くと温まる。屋根の下で風が当たらない快適さと藪を漕がなくて済むという解放感・安心感で、細切れながらも睡眠をとることができた。
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