| 2月の中旬ともなれば冬至の時分に較べると日が一時間も長くなる。相変わらず寒さは厳しいが街中では梅の花もほころぶ。自宅の庭ではマンサクの花も咲き始めた。渓流釣り解禁も間近で、気分はもう春を先取りしている。今年は高原山南斜面の土上平放牧場が積雪して白く見えている日が多い。これは例年になく高原山の積雪が多いことを意味している。そんなことは良く判っているのに、陽気に誘われて久しぶりに高原山に向かった。 ボケッとして車を走らせていたらコンビニに寄らずに下塩原矢板線入り口まで行ってしまったので、そのまま素通りして上伊佐野のファミリーマートに寄った。つい先日強盗騒ぎがあったばかりで、ご主人の格闘した際にできた傷跡が生々しい。ファミリーマートから木ノ芽沢沿いに走って、山縣有朋記念館の前を通って下塩原矢板線に向かった。
下塩原矢板線は除雪されていて車の通行に支障ない。しかし、八方ヶ原では少ないところでも積雪が50cm程度あった。こりゃ山歩きは無理だなと思ったが、大間々台に向かう道路は車が入り込んだ跡があり圧雪状態であった。道路でも歩いてみようかと思い直して学校平の駐車場に車を停めた。この冬からいろいろ催しが行われるようになって連日多くの車が訪れた跡があったが、当日朝は誰もいなかった。
9時00分 歩行開始。 学校平の駐車場を抜けて下塩原矢板線に出ると対面の斜面にスノーモバイルが入り込んだ跡があった。スノーシューの跡もある。樹林の中にはきれいなピンク色の長いリボンが点々とつけられている。これは小間々方面に至る遊歩道らしく、雪山歩きのコースになっているようだった。しばしこれを辿っていくことにする。スノーシューの跡は真新しく、昨日午後に下ってきた時のものだった。こちらは登りで足跡と歩幅を合わせにくいものの、かんじき無しで楽に辿ることができた。
9時25分 小間々のキャンプ場到着。 大入道が間近に見える。途中に横たわる沢が見えないから楽に到達できるように見えてしまう。大入道と書かれた方向からスノーシューの足跡が戻ってきているのでそのまま足跡を逆に辿っていく。ピンク色のリボンがまるでヤシオツツジのようである。尾根上の赤テープは邪魔だが、同じ目印でも雪原の遊歩道を案内してくれるリボンの存在はありがたい。
雪原には動物の足跡が全く無い。故郷の雪山では縦横無尽にノウサギの足跡がついているのが普通だから、高原山の雪面にノウサギの足跡が無いのは奇妙な感じがする。雪国のノウサギが冬季に白い冬毛に変わるのに対し、積雪しない地方のノウサギは色変わりしないという。八方ヶ原では常に積雪するとは限らないため、保護色を必要とするウサギにとって住みやすい場所ではないのかもしれない。
小さい沢沿いに進んできた足跡が90°左に折れて太陽の方角に進んでいく。どう考えても大入道とは逆方向である。案の定、案内標識には大間々方面と書いてある。解せないことに自分が進んできた方向が剣ヶ峰方面とされている。しかも、大入道方面を示す案内は無い。もともと大入道に行く道を知らないので、スノーシューの跡を辿って行き過ぎてしまったのである。他に足跡が無かったので大入道に行った人がいないことを意味した。この時点で楽に大入道に行くという目論見はご破算となった。
10時10分 標高1,220m付近から北進。 大間々台方面には向かわず、反対側の足跡の無い深い雪の上をかんじきを履いて歩いていった。すぐに小さい沢を越え、次に広い桜沢、最後に細い沢を越えて大入道が見える場所に到達。だいぶ剣ヶ峰に近づいてしまったようだ。小間々から見た大入道のほうが近い。目の前には雪深い大きな谷が広がっている。行けなくはなさそうだが、危険を冒す気にはなれない。大入道に向かうにはせっかく稼いだ標高がムダになる。ケチな性格なのでこういうルートが嫌いだ。どうも大入道は好きになれない。
積雪は1m程度。かんじきの具合は良好。この調子ならば剣ヶ峰まで行けそうな気がして、樅が混じる緩い斜面を剣ヶ峰方面に向けて歩いていった。一本調子の長い緩い台地が終わり、いよいよ剣ヶ峰の山体の尾根登りが始まる。前黒山方面から風雪が吹き付ける場所なので積雪量が多く少し歩きにくい。前方に先端が赤く塗られた杭が見えてきた。左下の樹木には対角線で赤白に塗り分けられた小さい四角の板が付けてある。これが林間コースらしい。
11時21分 剣ヶ峰林間コースと出会う。 標柱には剣ヶ峰まで0.7kmと書かれている。冬季に歩く人は皆無らしく人の足跡は無い。ここまで順調だったので、直線距離にしてあと700mしかないならばこのまま頂上まで行ってみようというものだ。天然イラモミ林の中を進む。前黒山や男鹿山地が良く見えるが、開けた場所は無く写真撮影には向かない。積雪量は多いところで1.5〜2m程度あるだろう。無雪期ならば頭上にあるはずのイラモミの枝が腰より下にあって邪魔だ。斧で枝を払った跡がなければとても登山道があるとは思えない。やっとノウサギの足跡が現れた。イラモミの林は猛禽類から身を隠すのに好都合であるようだ。
12時00分 八海山神社到着。 八海山神社では予想に反して誰もいないし、人が訪れた跡すらなかった。快晴で日差しは強烈。釈迦ヶ岳から前山を経て土上平放牧場に至る尾根や尚仁沢が良く見渡せる。穏かな日で南西側から礫地を吹いてくる風は弱いが、気温が氷点下でとても寒く感じられる。礫地に腰を下ろし昼食を食べながら、かつて眼下の笹原と谷で遭難しかけた記憶を思い起こした。
北西のイラモミに覆われて黒く見える1,590mピークは積雪が深くて行く気にはなれない。下りは見晴らしコースを辿ることにした。予想以上に積雪が深い。潅木がすっぽり雪に埋もれてしまっているので、何度か踏み抜いて腰まではまった。雪山のかんじき歩きで普段使わない腿裏の筋肉に少し疲労を感じる。期待外れだったなと思っていたら、テレマークスキーの跡が現り、さらに下るとスノーシューの跡もあり、いずれも中途半端な場所で引き返していた。スノーシューの足跡はありがたい。おかげで楽に尾根を下ることができた。
13時03分 見晴らしコース登り口到着。 青空コース上にはスノーモバイルの跡がついていて、かんじきは不要である。過去いずれもミツモチ山方面に向かったので、大間々台に向かうのは今回が初めてであった。この日は幸いなことにスノーモバイルが奥地まで入り込んでおらず静かな雰囲気である。
13時15分 大間々駐車場到着。 除雪されていないので車で大間々駐車場に来れない。誰もいなかった。何年か振りで展望台に登り男鹿山地の全景を眺める。ここからは車道を歩いて学校平に戻ることにした。小間々を過ぎて直線道路が左にカーブするところでランドクルーザーと小型車が立ち往生している。脱出を試みているらしい。小型車が下り方向を向き、ランドクルーザーが上り方向を向いている。おそらくランドクルーザーが無謀に進入してはまり、小型車が応援に来たらしい。方向転換できる場所が無いので脱出するのは大変であったろう。
14時00分 歩行終了。 学校平の駐車場にはトレーラーを牽引した大型の車が数台停まっており、家族連れでスノーモバイル遊びを楽しんでいた。
常々雪山には行かないと言っていたのに図らずも本格的な雪山歩きになってしまった。雪山歩きも捨てたものではないが、春が本番を迎えるまでもう少し県北の山歩きは自重するつもりである。
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