| 今年の夏期休暇の前半は日程の都合でアユ釣りを山歩きに先行させたため、釣った魚を処理するために前日夜、新潟県から田舎(猪苗代)に移動。父と酒を飲んでいて、「明日は沼尻口から安達太良山に登ってみようかな。」と言ったら、親父殿が一緒に行くという。父は60年近くも前の高校生時代に沼尻温泉から登り、一日で沼の平経由で安達太良山、鉄山を縦走して土湯峠に抜けている。自分としても安達太良山なんて楽に登れるという認識だったので、一緒に登ることにした。 安達太良山は猪苗代出身の自分にとって非常に身近な存在であったはずなのに、ほとんど意識したことが無かった。理由は、川桁山地に遮られて家からは姿が見えなかったことと、高村光太郎の「智恵子抄」が有名で二本松市の山というイメージが強かったためである。初めてその姿をまじまじと見たのは高校時代に川桁山に登った時であったろうか。標高がさほど高くなく全体的には穏かな形状なのに、赤茶けた肌がむき出しになっているのが印象的であった。
郷土に関する知識が増えるにつれて安達太良山に対して抱くイメージが徐々に変わっていく。この山は派手な磐梯山の影で目立たないながらも猪苗代の経済や自然に大きな影響を与えてきた。猪苗代湖が高い透明度を維持して観光資源たり得る理由は、安達太良山の旧沼尻硫黄鉱山跡に水源を持つ長瀬川の支流・酢川の水が強酸性であるからである。ここに源泉を持ち豊富な湯量が売り物の沼尻温泉と中ノ沢温泉は猪苗代町の温泉の代表格だ。旧沼尻鉱山はかつて硫黄の産出で地元経済を潤し、硫黄を磐越西線の川桁駅まで搬出するための鉄道(軽便)まで敷設されていた。昭和40年代に沼尻鉱山が閉鎖され、鉄道も廃線となった。大人になって廃なるものへの興味が増すにつれ、長瀬川の水源でもある沼尻鉱山跡に関心を抱くようになり、安達太良山への興味が湧いた。活火山であることも魅かれる理由の一つだ。初めて見てから30年近く経って興味が湧き、ようやく行ってみたいと思うようになった。
8時40分 白糸の滝駐車場(標高約1,130m)から歩行開始。 沼尻温泉から続くスキー場内の未舗装林道の終点が広い駐車場になっており、ここが現在の正規の登山道入り口である。元々の登山道は爆裂火口(沼の平)から西側(猪苗代町側)に向けてバックリと開いた大きな谷沿いにあり、この駐車場が起点となって白糸の滝を巻き、沼尻硫黄鉱山跡を抜けて沼の平を経由して火口壁を登っていた。平成9年に硫化水素ガスによる登山客死亡事故が発生して以降は駐車場から障子ヶ岩上に直登するコースが新たに整備された。旧来の登山道は閉鎖され、源泉の管理道としてのみ使用されており関係者以外は立ち入れない。
2万5千分の1の地図上には沼尻温泉からスキー場の最上部に至り障子ヶ岩・船明神山経由で安達太良山に至る道が記載されている。現在の登山道はスキー場の最上部から先は地図上の破線を継承していると考えられる。沼尻温泉とスキー場最上部の間がどうなっているのかは判らない。現在は通る人がいないのは確かなようだ。
亡くなった4名の登山者の鎮魂の碑を右にみて登山開始。父親のペースで登ってもらう。自分は前日の酒が残っているみたいで少し調子が悪い。白糸の滝展望台にはすぐに着く。ここまでは老人でも訪れることができる。少し急斜面を登ると2つ目の展望台がある。さらに登ると平坦な尾根上に出る。沼尻スキー場の最上端でもある。沼尻硫黄鉱山跡地を左下に見下ろし、いよいよ障子ヶ岩の上に向けて長い急登が始まる。幸い、日陰で涼しい風も吹いていたので助かったが、無風ならばぐっしょり汗をかくところだ。
10時06分 障子ヶ岩上(標高1,641.2m)到着。 初めて見る眼下の沼の平の光景は感動的ですらある。できたら帰りに谷の反対側を下ってこようかなどと話していたのだが、かなり行程が長いし道の状態も悪そうなので、この時点で同じ道を戻ってくることにした。
植生的には南側斜面にウラジロヨウラクやハクサンシャクナゲが咲いているのが目立つ程度。花の百名山に選ばれている割には目を惹く植物はない。八重ハクサンシャクナゲにはお目にかかれなかったのが残念なところだ。
障子ヶ岩から見た安達太良山頂は遠い。しかも、稜線沿いには進めず、一旦南側に下って登り直しが必要なので結構しんどいコースである。道理で歩く人がいない訳だ。小さな透明な沼(水溜り)の縁に沿って崖下を南に巻き、岩の隙間を数十mよじ登ると船明神山の祠が見えてくる。船明神山の分岐から火口壁に沿って牛の背に向かう時の下りが砂礫地なので滑りやすい。この区間は谷沿いに吹き上げてくる強風が抜ける場所で、帽子を被っていられない。牛の背から90度進路を変えて沼の平から離れる方向で安達太良山に向かう。こちらはさらに風が強い。おかげで日光の直射を受けて日焼けしてしまった。
こんなくそ暑い平日に安達太良山に多くの人が登っているのには驚いた。遠足らしい中学生の集団も登ってきた。この山は特に奥様連中のパーティが多いようである。ほとんどの人はあだたら高原スキー場から登ってくるのであろう。
11時13分 安達太良山頂到達。 最後は乳首山の岩場をグルッと巡るようにして山頂に立った。周囲に遮るものは無い。沼の平を直接見下ろせる場所ではないだけに眺望はいま一つ。風が強いのですぐに下って、風裏の礫地で昼食とした。
11時45分 下り開始。 風はさらに強くなった。火口壁の上を歩いていると吹き上げてくる砂が顔に当たって痛い。船明神山まで戻ると風の通り道からはずれてだいぶ楽になる。障子ヶ岩からの長く真っ直ぐな下りがとてもきつく感じられた。
14時00分 車に帰着。 日差しが強烈で高温下での登山であったが、風が強かったおかげでバテることなく歩き続けられたといえるだろう。父の健脚ぶりにも驚いた。ひょっとしたら自分より体力あるかも。
この後、中ノ沢温泉で一風呂浴びてから帰宅した。ぼなり(母成)沼尻勤労者保養センターの湯(\500)がお薦めである。
|