前黒山登山(スッカン沢北側尾根ルート探索) (2003年4月)
年月日: 2003.04.19
目的: 前黒山登山(スッカン沢北側尾根ルート探索)
出発点: 鹿股沢治山資材運搬路入り口(標高920m)
到達最高地点: 前黒山南東のピーク(標高1,700m)
到達最遠地点: 同上。
天気: 晴れ時々曇り→曇り、微風
出発時刻: 08:15
到着時刻: 14:40
総所要時間: 6時間25分
遭遇した動物: ヤマカガシ、シカ。
登る途上で見た男鹿山地  9:37

標高1,345mのなだらかな小ピークの少し手前に、樹木が無く北側の視界が開ける場所がある。左端が日留賀岳、中央奥に少し頭を覗かせているのが男鹿岳、中央から右に向かって1,870m峰、大佐飛山、大長山。

北側向かいの標高1,300m級の尾根は稜線部がダケカンバに覆われ、尾根直下の植林地帯との間は気持ちよさそうな笹原になっている。おそらくシカの楽園となっているであろう。

1,700m東峰  11:50

石楠花混じりの痩せ尾根を抜けると樹木の無い雪原に出る。これが下塩原矢板線から見える山頂直下の笹原らしい。山頂はイラモミとコメツガに覆われている。登頂時は厚さ50cm程度の残雪に覆われていた。

頂上には三角点ではない標石が設置されており、そこだけポッカリ雪が融けて穴が開いていた(写真のザックの位置)。

1,700m東西峰間鞍部から見た光景@  12:00

1700m東西ピーク間鞍部からの眺めは大変宜しい。北側には男鹿山地が見えるが、南側のほうが視界が広がる。

手前が1,627m峰、中央が明神岳西峰、右が東峰、背後にボンヤリ見えているのが月山と夫婦山、遠くに見えるのが日光火山群。

1,700m東西峰間鞍部から見た光景A 12:01

眼下にはスッカン沢最奥部が広がり、釈迦ヶ岳から剣ヶ峰に向かう登山道のある尾根が対面に見える。

左が釈迦ヶ岳、右が鶏頂山。

天気が崩れないのであればいつまでも見ていたくなる景色であった。

今年は例年になく栃木の山々の積雪が多く、南側斜面ですら4月半ばを過ぎても標高1500m以上では雪に覆われている。田んぼに水を引く季節になると川の水量が激減して水産資源に打撃を与えるのであるが、今年に限って言えば雪代が多いために極端な減水は避けられそうである。反面、川の水温が低いためにアユの天然遡上が遅れ気味で関係者をやきもきさせていたが、17日に烏山で多数の遡上アユが確認されたという大変めでたい知らせがあった。小さい体で那珂湊から100数十Kmも那珂川を遡っていく稚アユに声援を送りたい。

さて、久しぶりに土曜日の午前中は良い天気が望めそうとのことで、ようやく高い所に行ってみようという気になった。木々の芽吹きは積雪とはあまり関係がない。ぐずぐずしていると見通しがきかなくなり尾根歩きができなくなってしまう。積雪が少なく歩きやすい高原山南側及び東側の主だった尾根は一通り探索したので、今回は北側に行ってみることにした。北側は積雪量が多く日照量も少ないので植生が南側とは異なる。笹藪は覚悟しているが、唯一気がかりなのは残雪である。このところ暖かい日が続いていたので雪もいい加減消えているだろうと期待して、北側探索の最初の対象として前黒山を選んだ。

高原山は釈迦ヶ岳をはじめとする南側の火山と前黒山を中心とする北側の火山が複合して形成された。よって、前黒山は立派な登山対象となっても良いはずだが、登山道も無ければ登る人もほとんどおらず、忘れられた可哀想な存在である。日塩もみじラインの方から登るのが一般的であろうが、どうせ登るなら新しいルートを開拓してみたい。釈迦ヶ岳に登ったときに見て以来、スッカン沢の左岸斜面の林道が気になっていた。下塩原矢板線を起点とし、野地湯沢から上がりスッカン沢側に延びる林道である。等高線を見る限りでは、林道を車で両沢の間の尾根まで上がれれば、尾根を伝って前黒山東側の1,700mピークまで登れそうである。1,700mピークを越えて前黒山(1,678.3m)に至り、できれば一旦1,700mピークに戻ってからスッカン沢最奥部の稜線を辿って1,620mピークを経由して明神岳まで行ってみるつもりであった。

下塩原矢板線(八方ヶ原観光道路)を八方ヶ原より北側に行くのは1999年以来初めてであった。南側と同じ標高でもダケカンバやシラカバの木が目立ち、笹も深い。日陰が多いのでどうしても陰鬱な印象は否めない。途中で前黒山が見えたが、かなりの残雪量である。一瞬、前黒山を選んだのは失敗だったと思ったが、とりあえず行けるところまで行くことにした。

林道入り口は下塩原矢板線から日塩もみじラインへの連絡路が分岐する近くにある。下塩原矢板線が野地湯沢でカーブするところである。林道は営林署の管轄で正式名称は「鹿股沢治山資材運搬路」である。一般車両通行禁止であるが、ゲートは開いている。しかし、路面状態が悪そうだったので車で進入するのをあきらめ、入り口横に停めた。途中まで車で上がり標高を200m稼ぐ計画が早くも狂ってしまった。

8時15分 歩行開始。 暖かい朝で、標高900m以上でも気温が13℃あった。林道はかつては部分的にコンクリートで舗装されていたようで、かなり堅牢に作られていたのだろう。大水で抉られた場所や路肩の崩落は無く、歩行には全く問題無い。しかし、今年になってからはまだ修復工事が行われておらず、木が倒れこんでいたり岩が崩落していたりして、車での進入は不可能であった。つい数日前までは雪に覆われていた場所もあったようで、フキノトウがあちこちに顔を出していた。

8時37分 湧水到達。 長い真っ直ぐな登りの途中に湧水がある。ご丁寧に塩ビのパイプが差し込まれている。林業関係者が利用しているのであろう。気温が高いので発汗量も多い。携帯している飲料水を節約するために、ここで喉を潤した。なかなかおいしい。

林道は野地湯沢の左岸をほぼ真っ直ぐ登り、野地湯沢を渡ったところで左に折れ曲がり、目的の尾根に上がっていく。尾根に上がるまでの区間は尾根の北側斜面なので林道も残雪で覆われていた。先が思いやられる。おまけに地図を忘れたことに気付いた。これでは方位磁石を持っていても意味がない。いつものように頭の中の地図を頼りに歩くしかない。

標高1,300m辺りまでは尾根の両斜面に植林されているが、稜線は自然林が残されていて明るく見通しも良く、目的地の1,700mピークも見えている。雪も消えていた。林道から尾根に分け入る場所はどこからでも良いが、標高1,150m地点で尾根に入り、南側斜面の檜植林地帯の縁に沿って登っていった。林床は笹薮だが、シカやカモシカの獣道を辿ればあまり苦にはならない。

9時18分 二つ岩到達。 ミズナラの林にダケカンバやシラカバが混じり、林床をミヤコザサが覆う尾根を淡々と登っていくと、二本のミズナラの間に古い太いワイヤーが張ってある。これがこの尾根に人が訪れた唯一の痕跡である。ワイヤーを過ぎて間もなく林間に大きな岩が2つ見えてくる。この尾根で出会う最初の岩石である。

9時37分 男鹿山地撮影ポイント到達。 標高1,345mのなだらかな小ピークがある。この少し手前に、樹木が無く北側の視界が開ける場所がある。北側向かいの標高1,300mのダケカンバに覆われた尾根を少し見下ろすかたちで、日留賀岳・大蛇尾山を含む男鹿山地の全景を眺めることができる好ポイントである。尾根の南側も檜の植林地帯を過ぎて見晴らしが良く、スッカン沢を挟んで釈迦ヶ岳・剣ヶ峰・大入道・大間々・八方ヶ原までの全てが見える。また、この近くにはシカの角研ぎの跡が見られる。

1,345mピークを過ぎると笹薮に覆われた急斜面を登る。登山道はないのだが、稜線に沿ってついているシカやカモシカの獣道を部分的に利用できる。

10時25分 1,490mピーク到達。 落葉樹に覆われた急斜面を登るとコメツガ・イラモミ・アスナロに覆われた標高1,490mの小ピークに到る。天気が良いので針葉樹の日陰は助かる。お腹もすいたのでシカの糞の転がっていないところを選んで軽食をとった。暖かいので1,500m近くでも小さなハエがたくさんまとわりつく。

この先は再び標高差100m余りの急登となるが、笹が深く且つ雪が残っていて、このコースで一番の難所である。積雪がある場所ではミヤコザサを大きくしたような縁取りの無い笹が密生していて滑るのでうまく登れない。ササを避けて残雪の上を登ったが、気温が高くて雪が締まっておらず時々踏み抜けるので慎重に歩かなければならない。雪があってもなくても登りにくく、なかなか標高が上がらない。標高を100m余り稼ぐのに1時間近くを要した。雪の無い場所で足元からヤマカガシが逃げ出したのに驚いて声をだしたら、上方にいたシカが驚いて鋭い警戒音を何度も発しながら逃げた。標高1,600m 近くで今年初めて蛇とご対面をするとは思わなかった。

難所を過ぎると尾根が90°右側に折れ曲がり、イラモミとコメツガに覆われて岩がゴツゴツした狭い尾根を北西方向に進む。障害物が多く雪が残っているため、勾配は緩いが難所である。この難所にもおびただしい量の糞が落ちている。シカは歩きながら糞をするので糞がばら撒かれ、カモシカはまとめて糞をするという。糞がまとまっているし、大きくて型も揃っているのでカモシカであろう。

11時50分 1,700m東ピーク到達。 1,700m東ピークはイラモミとコメツガに覆われたなだらかな場所である。一面、50cm〜1mの雪が残っていた。確か、前黒山はこの先にあるはずと思って目を凝らすが、何もない。悲しいかな地図を持ってこなかったので違う方向を見ていたのに気付かなかった。前黒山は西北西の方角にあるのだが、北北東の方角を見ていたのである。このピークには地図には載っていないが三角点らしきものが設置されていた(写真Fのザックを置いた場所)。このため、腑に落ちないながらも前黒山に来たのだと思い込んだ。さて、スッカン沢最奥部の縁に沿って進めば明神岳に行けなくはない。しかし、ここまでかなりの時間を要しているし、午後から天気が崩れるという予報であったので、隣の同じ標高のピークまで行って引き返すことにした。後で地図を見て判ったのだが、隣のピークが1,700m西ピークであり、前黒山はさらにその先にあったのである。前黒山は1,700mピークからは見えにくい場所に位置しており、地図無くしては気付くことは困難であった。高原山の西側斜面は積雪量が多く、往復の上り下りを考えると前黒山に行かなかったのは正解だったかもしれない。

12時00分 東西間ピーク鞍部到達。 西ピークに行く途中で正午をむかえた。塩原方面から正午を知らせる音楽が聞こえてきた。ここからの眺望はなかなか秀逸である。特に釈迦ヶ岳・鶏頂山を北西から見た構図が良い。3月21日に船生奥から見た構図と正反対である。日光火山群が背景となった明神岳も良い。男鹿山地も見える。雪の上に残された足跡は明らかにカモシカのものだった。

12時10分 1,700m西ピーク到達。 鞍部に荷物を置いて行ってみた。見晴らしはあまり良くない。標識も無い。知っていれば前黒山が見えたかもしれないが気付かなかった。すこし心残りだが、将来の楽しみとしよう。鞍部まで戻って景色を眺めながら昼食をとり、着替えをして下った。帰りは雪の上の足跡を辿れば良いので気が楽である。難所の残雪は足スキーで楽に下れるのかと思ったらとんでもなかった。午後になってさらに雪がやわらかくなり、腰まではまったり滑落したりで結構危険である。ササの上もツルツル滑って何度か尻餅をついた。雲が出て一瞬パラパラと雨も降り出したが天候が崩れることはなく概ね順調に下った。

13時40分 林道に出る。 昭和58年に植林された若い檜林を右に見ながら下っていくと、林道が目に入った。登りの時は気付かなかったが、標高1,190mの林道のカーブの所が尾根に入り易い。当初の計画では車でここまで登る予定であったのだ。林道は長いが、危険な場所は全く無いので、もう帰り着いたも同然である。湧水で顔を洗い、おみやげにペットボトルに水を詰め、フキノトウを採取しながら戻った。

14時40分 歩行終了。 

1,700mピークからの眺望は秀逸で、天気の良い日に登山することをお薦めしたい(この時は、前黒山から良い眺めは望めそうもないと想像していたが、実は前黒山からの眺めも素晴らしい。)。今回試したルートは極めて判りやすいルートで道程はたいしたことがないのだが、残雪に苦しめられてかなり時間を要した。尾根の特徴を一言で表現すれば、「高原山の聖域」ということになろうか。尾根には人跡が一切無い。種々の野鳥のさえずりは今まで体験したことがないほど豊かであったし、シカ・カモシカ・ノウサギの糞だらけで、野生動物が安心して暮らせることの証明である。このまま手つかずの自然が残されることを願いたい。