御霊櫃峠〜大将旗山〜額取山(安積山)(2003年11月)
年月日: 2003.11.02
目的: 額取(ひたいとり)山登山
出発点: 御霊櫃(ごれいびつ)峠(標高約885m)
到達最高地点: 大将旗(たいしょうはた)山(標高1,056.3m)
到達最遠地点: 額取山(標高1,008m)
天気: 快晴
出発時刻: 12:00
到着時刻: 14:30
総所要時間: 2時間20分
遭遇した動物: 無し
額取山から見た磐梯山

郡山盆地から西方を見ると、決して高くはないが壁のように連なる山々が見える。この尾根上に磐梯熱海から南の三森峠に到るハイキングコースが整備されており、郡山盆地の全景と阿武隈山地が一望できる。写真でうまく表現できないのが残念だが、周囲に遮るものが無いので、とにかく眺めが良い。猪苗代湖や会津の山々も良く見える。家族連れで楽しめる人気のコースであることが頷ける。

歴史的・気候的には会津だが、現在は郡山市に属する。現在の会津地方の人々にとってはなじみの薄い場所で、ほとんどの登山客は中通り地方から訪れるようである。

猪苗代湖の東岸に、大沢川が形成した全長5kmの東に切れ込む谷がある。この谷の最奥部が御霊櫃峠であり、郡山側の裾野の住民にとって信仰の対象となってきた。戊辰戦争の舞台となった場所でもある。また、峠の北側に位置する大将旗山と額取山にはそれぞれ八幡太郎義家にまつわる伝説があるという。わざわざ山に登って旗を立てたとか元服の儀式を行ったという話は信じ難いが、古い時代の伝説があるということは、水が流れ出る山の裾野に昔から人々が住み着いていたということであろう。安積疎水によって猪苗代湖の水を引くまでは郡山盆地は不毛の地であったが、山の裾野は元来豊かであったのではないか。大和朝廷軍が現在の郡山市より山裾側を北上していったのは確かなようである。

会津の山は笹深い。特に猪苗代の山々のチシマザサ(ネマガリダケ)の藪はすさまじく、道無き尾根の縦走は困難である。田舎に帰省した時に縦走できそうな山として目をつけたのが大沢川沿いの尾根である。御霊櫃峠と同じような場所であれば大沢川北の尾根伝いに大将旗山まで行けるかもしれないと期待した。

7時00分 大沢川北尾根縦走挑戦。 せっかく用意した地図を実家に忘れてきてしまった。しかし、本日は快晴で木々は落葉しているので多分なんとかなるであろう。猪苗代湖から御霊櫃峠に至る林道横(標高約550m)に車を止め、涸れた大沢川を渡り、植林用の林道を跨いで北側の1,001mピークの最も勾配の緩そうな支尾根に取り付く。最初は杉の植林地、次は松林で林床はクマイザサの藪。勾配は急だが、クマイザサの藪は楽勝。さらに高度を上げるとミズナラ林にヤマツツジが混じり、次第に潅木化して密になって進みにくくなる。朝日に照らされて朝露が蒸散し谷全体が朝靄に埋め尽くされている。猪苗代湖の上に存在する高気圧から周囲に浜風が吹き、水蒸気が御霊櫃峠に向かって流されていく。尾根に当たる風は快適であった。ヤマツツジの藪を過ぎるとついにチシマザサのご登場。尾根上はミズナラの林と丈2m程度のチシマザサの藪が続く。1,001mピークの藪はあまり濃くない。鞍部の獣道を辿って東の1,030mピークに向かった。

1,030mピークは広く、ミズナラに混じって小さい赤い実がなる樹木が目につく。木の下には赤い実の果肉を吸い取ったあとで吐き出した大量の残りかすが溜まっている。これが何箇所もあった。間違いなくクマの仕業だ。頂上付近は3mを超える巨大なチシマザサの藪で全く視界が利かない。大きな動物(たぶんクマ)がバキバキ音を立てて移動している。こちらが故意に音や大声を出すことで遠ざかっていった。ツキノワグマは平和的な動物である。ヒグマのように人間を襲って喰うことは無い。藪を漕げば音が出るので100%クマの方が先にこちらを察知して遠ざかる。このため、藪の中で襲われることは絶対に無い。危険なのは沢筋のように藪が少なく自分の歩く音がかき消されるような場所、もしくは林道のように歩く音がしない場所ではちあわせした場合である。私はクマが多数生息する山域で子供の頃から鈴無しで一人で藪を歩いているが、危険な思いをしたことは一度も無い。ピークを抜けてようやく周りが見渡せる尾根に出たが、これは本来進むべき尾根ではなかった。額取山らしき山は3kmくらい先で、大将旗山に連なる尾根はさらに藪がひどいように見える。

10時00分 1,030mピークで撤退。 この尾根を1日で縦走することは不可能であると判断し、潔く撤退を決め、来たルートを戻った。このピークには三角点があるはずだが、潜り込むこともできないほどの笹薮で見つけられなかった。帰りに再びクマが移動する音を聞いた。尾根を下る途中で猪苗代湖を一望できる。猪苗代湖は水の透明度が高く、横沢浜の遠浅の水底の地形がくっきりと見えたのに驚いた。

11時30分 車に戻る。 少し早い昼食とし、午後の行動を思案。御霊櫃峠から何台も車が下ってくる。人気の場所で混み合っているだろうが、やはり当初の目的である額取山に御霊櫃峠から歩いてみることにした。峠の駐車スペースは狭い。車が30台くらい路上に停めてあり、車一台がやっと通れるくらいである。Uターンする場所も無いので郡山側に少し下り、若干道路の幅が広くなったところでUターンした。猪苗代湖側に少し下ったところのカーブが広くなっているので、混んでいるときはここに車を停めるのが良い。

12時00分 歩行開始。 水を余分に持ってこなかったことに気づく。全て飲んでしまった。この陽気で水無し歩行はつらい。しかし、地図を忘れた強みで、途中に幾つピークがあるのかも、実際に目的地まで何キロあるのかも知らないので、額取山まで簡単に行けると思っていた。

御霊櫃峠は猪苗代湖からの風が強く吹き抜ける場所なので樹木が大きくなれない場所である。風の強い日には立っていることもできないという。6月にはヤマツツジの花で尾根全体が赤く燃えることで有名だが、確かにヤマツツジの藪が多い。また、8月にはマツムシソウの花も見られるそうである。尾根のどこからでも眺めが良いが、登山目的でなければ御霊櫃峠から10分もかからない最初のピークまで登れば充分であろう。風神社と雨神社が郡山方面を向いて並んでいる所である。中には2番目のピークまで行く人もいる。遮る物がないのでここで無線交信を行っている人もいた。

3つ目のピークが岩山で、4つ目のピークがこのコースで最高点の大将旗山である。一歩手前の礫地から見た会津側の景色が良かった。川桁山の裏の小田峠が良く見える。大将旗山の山頂にはたくさんのハイキング客がいたので、休まず次へ向かう。目的地の額取山は他のピークとほとんど同じ高さなので、はっきり視界に捉えられるようになるのは5番目のピークに達してからである。まだまだとても遠く見えて、疲労感が増す。

7番目のピークを下る時、たまらなく喉の渇きを覚えた。抑え気味に歩いて発汗を抑えたつもりだが、11月とは思えないような陽気でかなり体の水分が失われたらしい。水分を多く含み食べられる植物として目に入ったのがフキの葉である。苦くても口を潤す水分がありがたい(この後、口の中が渋だらけになって大変だが。)。

13時25分 額取山(標高約1,008m)到着。 8番目のピークが額取山である。10名ほどの登山客が休んでいた。この山の特徴は北側の眺望が良いことであろう。磐梯熱海方面が見える。早く戻って水を飲みたかったので、疲れているのに往きより帰りのほうがペースが早かった。20名以上追い抜いたようだ。3番目のピークではマウンテンバイクを担いだ2人連れとすれ違った。額取山から磐梯熱海に下るのだという。

14時30分 歩行終了。 峠を下ったところで道路脇に水がチョロチョロ湧き出ている。ここでようやく喉を潤し、血の巡りが良くなったような気がした。終日快晴で穏かな天気。充実した一日であった。

後日談が一つ。数日後、車のシートに背もたれた時に背中に違和感を覚えた。手を背中に伸ばして触ると少し痛む。風呂に入って背中を洗うときも少し痛みを感じる。この時は背中に吹き出物でもできたのだろうと思った。翌日入浴しようとして背中を鏡に映すと、黒いかさぶたのようなものが見える。いつのまにこんな物が?剥がそうとしたが痛い。良く見えないので女房を呼んだ。女房曰く、「変な模様のあるかさぶただ。」。テイッシュでつまんでとろうとしたが、剥がれかけても先端部がなかなかとれない。そのうち、ブチッと食い込んだ部分が切れた。とったものは5mm径の甲羅のようなもので、足が生えていてワシャワシャうごめいている。思わず背筋がゾクッ。マダニと数日間をともに過ごしていたというわけだ。マダニの頭は肉の中に埋もれたままとれず、10日くらい後になって吹き出物になって残骸が出てきた。リケッチアに冒されることがなかったのが幸いだった。

マダニはたっぷり体液を吸い込んで成長すると自ら落下して地中に卵を産み付ける。孵化した幼虫は藪の中でひたすら宿主と出会うのを待つ。よって、クマが生息する場所では当然のことながらマダニに喰われる確率も高くなる。午前中に登った1,030mピークにクマがいたので、この時のチシマザサの藪漕ぎ中にくっつき、着替えもせずに午後に安積山ハイキングコースを歩いているうちに吸着したに違いない。教訓を一つ。クマの生息する藪を漕いだ後は必ず服を脱いでマダニが着いていないか確認すること!

 

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