| 尚仁沢東尾根の旧登山ルートを確認したのに気を良くして、その翌週も高原山に出かけた。地図には宇都野から嶽山箒根神社を経由して八方ヶ原に至る登山道と、木ノ芽沢と金精川の間の尾根伝いに八方ヶ原に至る登山道が記載されている。あわよくば、これを組み合わせて八方ヶ原を一周しようという考えだった。 肝心の登山道が何処にあるのか知らなかったが、宇都野の嶽山箒根神社遥拝殿にいけば判るだろうと軽く考えてでかけた。期待に反して、嶽山箒根神社遥拝殿の裏から登る道はない。参拝道の案内もない。よく地図を見るともっと西側にあるようだ。しかし、車を走らせてみた限りでは農家が数軒並んでいるだけで、道がみつからない。そのうち、唐滝沢の林道に入りこんだが、持っている地図上ではこの道は行き止まりになっているはずなので引き返した。参拝道は高台にある分譲地:金沢ランドの端をかすめているので、遥拝殿から歩くのはあきらめ、今度は金沢ランドに向かった。金沢ランドを突っ切り、農家の横を抜けると十字路に出る。右折または直進すれば未舗装の林道で、左折すればきれいな舗装道路である。参拝道の案内は無い。舗装道路沿いに進めば何か案内があるかもしれないと期待して進んだが、道は次第に下りになり、唐滝沢の林道との出会いまで行ってしまった。振り出しに戻ってしまったことになる。
時間は既に11時になっており、一年で最も日が短い季節なので、当初の目標の達成は困難になりつつあった。せっかくここまで来て収穫無しで帰るのは納得できない。こうなったら適当に山の中を歩いて道を見つけようと思い、十字路に車を置いて正面の林道に侵入した。この林道は植林の時に作られたもので、今では使われていない。地面は荒れていないのだが、道のど真ん中に篠竹や若木が生えていたり、道脇の植林地から杉の木が倒れこんでいたりして、車は通れない。方向としては間違ってはいないようなので、そのまま進んだ。悪路を抜けると道路の状態が良くなり、今も使われているのではないかと思うほど保存状態が良い。この道路と交わる細い山道を見つけた。これが参拝道であろうと見当をつけて山登りを始めた。
通る人はほとんどいないらしく、道の状態があまり良くない。見晴らしも悪い。最初は参拝道であるという確信が持てなかった。しばし登ると右側の暗い林中に神様が祀られており、新しいしめ縄があった。今居るところが何合目かを示す標が数箇所あったので、旧参拝道であることを確信した。道は月山の南西斜面につけられており、左側に雑木の生える急斜面を見ながら進むと、きれいに舗装された道路に飛び出した。道路の反対側は道路建設時に資材置き場にでも使ったと思われる広場になっていて、参拝道の続きが見当たらない。舗装道路を左に進むと、右上方向に向かう参拝道の続きらしい道があったが、入り口に車が停まっていて林中から人の声が聞こえる。狩猟者だと危険なので、舗装道路を反対方向に進んで、山の上を目指した。この舗装道路は旧参拝道を3回分断するように建設されている。2番目と3番目の分断点の間を歩いてみたが、完全に廃道で、木イチゴが邪魔で歩きにくい。合目標示があることのみ確認した。3番目の分断点では山肌側がコンクリートの壁になっているのでそこから先には進めない。舗装道路を100m程進めば嶽山箒根神社の鳥居に至る。境内には樅、檜、杉の巨木が繁り歴史の深さを感じさせる。このときは11月の例大祭が行われたばかりだったので、おみくじが多数散らばっていた。
地図では嶽山箒根神社の裏から八方ヶ原に抜ける登山道があることになっているが、見つからないので舗装道路の方を歩いてみた。舗装道路は尾根の北側に建設されているので、日陰で冷え冷えとしており、前日に降った雪が日陰に積もっていた。右側の谷からは水の流れる音が聞こえる。舗装道路を進むと水源である八方湖に着く。既に午後1時を過ぎており、どうしようかと迷ったが、疲れもないし天気も悪くないので、八方湖畔でパンをほおばった後、八方湖畔を右から回って再び舗装道路に抜け出た。ここからは標高差にして約100mほどの緩い登りが続くのだが、これが意外に疲れる。最高点を過ぎると左に八方牧場を眺めながら未舗装道路を歩く。嶽山箒根神社から約3.5km歩いて八方ヶ原休憩所に辿り着いた。ここでカメラのシャッターボタンを押してあげた初老夫婦に「塩原方面に行くなら乗せていってあげるよ。」と言っていただいたが、残念ながら塩原は目指す方向とは反対であった。
下塩原矢板線(県道56号)に出て矢板方面に向かって下り始めると、足裏への荷重のかかりかたが変わり、違和感を感じた。私は舗装道路の下りで足裏にまめができやすく、既にその兆候が現れ始めていた。時間を稼ぐために休憩をとらなかったので傷みかたが速かったのだろう。紅葉の時期ならば気も紛れるかもしれないが、ただ寒い中の単調な下りで疲れる。早く山道に逃げ込みたかった。しばらく下ったところにタイヤチェーンの脱着場があり、その向かい側に旧登山道らしき窪みが続いているが、道は完全に廃道状態だった。なんとか窪みを辿っていくと未舗装林道(金精林道)にぶつかった。林道への出口にはかつて登山道だったことを示す粗末な標識があったがほとんど朽ちていた。林道は尾根に沿って延びており、ここからは旧登山道の上に建設されているようだ。林道に沿って進み、送電線の鉄塔近くまでくると、尾根の先の小ピークを巻くように笹原の中に山道がついているのが見えた。それが目指す旧登山道であることは間違いないのだが、入り口が判らない。近くには狩猟者のオフロード車が停まっており、藪漕ぎをすれば撃たれるのは確実である。少し林道を先に進めば入り口が見つかるかもしれないと期待して林道を先に進んだが、入り口はみつからない。まずいことになったとは思ったが、既に午後2時を過ぎて日没まで時間がない。覚悟を決めて林道に沿って下った。
林道は本来下るべき尾根を離れ、まだ水が流れてはいないが金精川の源流部にあたる浅い谷を渡り西側の尾根沿いに下っていく。金精川が作る谷を見渡す、植林したばかりの開けた場所で林道は終点となっていた。ここにも一台オフロード車が停まっており、中には一匹の猟犬が残されていて激しく吠えている。狩猟者は金精川の上下から挟み撃ちで鹿を追っているのであろう。金精川を渡って、旧登山道に復帰するのは無理だ。やむなく、植林地帯を下ると遠くから犬が吠えるのが聞こえてきた。こちらを察知しているのは間違いなく、ぐずぐずしていると撃たれる恐れがある。少し金精川から離れるようにして逃げた。尾根の中に窪地があり、次第に浅い谷を形成していく。谷沿いに杉が植林されていて、昔、植林や炭焼きに使われたと思われる道の痕跡がところどころついている。犬は振り切ったようなので、あとはこの谷をなんとか日没までに抜け出なければならない。かといって、急いで足をくじきでもしたら凍死するのは確実だ。あせる気持ちを抑えながら慎重に下った。次第に谷が深く切れ込んできたので、沢を左に見ながら尾根を下っていくと右側から来る沢と合流して尾根が消えた。川底に降りると、コンクリート製のU字溝の一部が転がっていた。近くに道があるはずだ。これで助かったと思った(この川は天沼川の東側の支流で沢入沢と呼ぶのだそうである。後日、本文をご覧になった方から教えて頂いた。)。川の東側斜面に最近重機が入ったばかりの道があった。この道を伝って尾根に出ると、広い伐採地があり、尾根全体を見渡すことができた。まだ谷の出口は遠いが、道が確保されたので心強い。斜面では林業関係者が作業中であった。こんな時期に山の上からひょっこり現れた私を、さぞかし変な奴だと思ったであろう。
ようやく沢入沢を抜け、上伊佐野・宇都野方面に至る道路に出た。ここからは何度か車で通っているので安心だが、車まであと8km有り、日没までには辿り着けない。その間に何度かアップダウンを繰り返す。足裏のまめがつぶれそうで、時間的にも肉体的にもぎりぎりである。前山採草放牧場横の長い下り坂は特につらかった。箒根神社遥拝殿から車を停めた金沢ランド奥までは、人に怪しまれずにすむ唐滝沢を経由することにした。これから標高差200m弱を登らなくてはならない。唐滝沢の林道を進むうちにとっぷりと日が暮れた。気温は既に零度近くに下がっている。体内の糖質が無くなっているので、歩いていても体が冷えてくる。なかなか金沢ランドに抜ける道が現れない。暗やみの中に分岐点をみつけたときは正直ほっとした。気が楽になったので残り1kmの登り坂を一気に歩いて車に辿り着いた。
距離にして22km、標高差約800mのコースであった。下りが当初の予定通りであれば、あと2km弱は短縮できたであろう。狩猟期間の山歩きには懲りた。春までおとなしくしていたほうが身のためである。木ノ芽沢と金精川の間の尾根伝いに八方ヶ原に至る登山道の探索は翌年の課題とした。
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