| 記録が残っていないので正確な日付は不明だが、尚仁沢を初めて訪れたのはこの年の1月であった。前年暮れに初めて釈迦ヶ岳を間近に見て、尚仁沢方面から登ることを考えていた。もともとテレビや新聞記事に影響を受けて沢歩きに関心があったこと、前年の暮れにフォレスターを買って行動範囲が広がったことも、尚仁沢に向かう一因となった。 自分が持っている地図は尚仁沢沿いに登山道があることを示していたが、どこにあるのかよく判らない。尚仁沢林道が未舗装になるところに車を止め、枯れ沢となった尚仁沢の底を上流に向かって歩いていった。水溜りにはイワナが一匹取り残されていた。涸れ沢に何故イワナがいるのかこのときは理解できなかった(2kmほど上流では水が常時流れていて、イワナが生息している。大水の時に上流から流されてきたのだ。)。尚仁沢は大水が出ると大量の土石が流れ出るらしく、砂防堰堤が幾つか建設されている。景色が良いわけではないので飽きてしまい、3つほど堰堤を越えたところで左岸の急斜面をよじ登って再び尚仁沢林道に出た。林道を上流に向かって歩いていくと、バイクの音が聞こえ、東尾根からオフロードバイクが下りてくるのが杉林の間から見えた。こちらに来るのかと思ったら、一旦上流側に向かい、その後西尾根に消えていった。東尾根に登るのが尚仁沢林道であることは判ったが、西尾根を越えていく舗装道路があることは知らなかった。この道路は林道黒沢線への連絡路なのだが、今でも地図に載っていない。
精進橋を渡って50mほど進むと、舗装道路が折れ曲がって西尾根に上がっていく。ここから沢沿いに未舗装林道が延びており、1kmくらい進んだところの堰堤横で終点となる。地図ではこの近くに登山道があるはずなのだが、ここまでそれらしきものは見当たらなかった。右岸(西尾根)は広葉樹の原生林だ。曇り空だが葉が落ちているので暗くはない。笹は深くなく登り易そうだったので、凍てついた小さい沢沿いに尾根に上がってみることにした。尾根の上は平坦な広大な原生林で、気持ちよく歩けるので奥に行ってみることにした。道に迷ったとしても、勾配に沿って下れば先ほどバイクが走っていった舗装道路にぶつかるという確証があるので不安はない。そのうち、笹の中に踏み跡を見つけた。踏み跡に沿って進むと、鬱蒼とした林の中に今にも朽ち落ちそうな神様が現れた。小さな立て札があり、守子神社と書いてある。この時はこの神様を祀る人はいないのではないかと思ったが、2002年秋に石造りの新しい神様が建立された。営林署の関係者以外は訪れそうにない深山で偶然出会ったこの守子神社の印象が強く、高原山の山岳信仰に興味を持つきっかけの一つとなった。
帰りは旧登山道を辿って下りた。尚仁沢側が檜の植林地帯、黒沢側が広葉樹林になっていて、登山道はその境目に沿って続く。最後は檜の林の中で道が消えてしまったが、ほどなく舗装道路に出た。舗装道路を下りさらに尚仁沢林道を下って車まで戻った。旧登山道の入り口が確認できたことと、守子神社を見つけたことが収穫であった。
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